山のこと、道具のこと。

山行

読売新道を登る

前週

お盆時期の立山黒部アルペンルートの始発チケット。

北アルプスを歩く人ならこれの貴重さを理解できるだろう。私はお盆より少し前に仲間と黒部に入り、釣りをしつつ谷を稜線まで登りあがる計画でかなり前からチケットを抑えていた。しかしながら、リーダーが病気になってしまい計画は中止となった。そして、私の手元には行き場を失ったアルペンルートのチケットだけが残った。

私はチケット予約日の前の週、友人と裏銀座をブナ立尾根から槍ヶ岳まで歩いていた。烏帽子岳から三ツ岳・野口五郎岳・水晶小屋まで東沢谷を眺めながら尾根歩きを楽しんだ。東沢谷は「ひがしさわたん」と読み、裏銀座と読売新道の間を、黒部湖へ向かって大きく真っ直ぐに落ちる谷だ。長大な稜線に挟まれた沢が光に照らされて続いていて、とても美しい。

裏銀座縦走の途中、東沢乗越側から見た東沢谷
裏銀座縦走の途中、東沢乗越側から見た東沢谷

裏銀座を歩いている時はかなりの雲量だったので、水晶小屋から先はワリモや鷲羽には登らず、黒部源流点側に降り、三俣に復帰した。黒部源流点付近では水を汲むのもやっとなほどに細かった流れは、祖父沢・祖母沢・五郎沢などの流れを集めて黒部川となり、赤木沢や薬師沢と出合い上ノ廊下を通って黒部湖へ注ぐ。私は歩きながら、黒部流域のことばかり考えていた。三俣に復帰して槍を目指している最中も東沢谷の景色が頭から離れなかった。こんなに谷を意識して山を歩いたのはこれが初めてだった。お盆時期に釣り上がる予定の谷とは他でもない、この東沢谷だった。

実は、この計画は去年にもあり、実際に東沢まで足を運んでいる。しかし、山に入る前から大雨が降り、前泊拠点の大町で停滞を余儀なくされた。雨の中奥黒部ヒュッテまで歩いたものの、そこでも一泊停滞。黒部湖はカフェオレのように濁っていた。ようやく晴れたので翌日東沢に行くも、水流が強すぎて近くの河岸段丘で一泊。翌日も水は引いておらず、無理をせずに撤退し、針ノ木谷などで二日ほど釣りを楽しんで帰ったのだった。今年の東沢谷の計画も中止。一人で東沢に行くのはナシとしても、針ノ木谷やヌクイ谷でソロで釣行に出てもいいのではないかと考えていた。

が、しかし。もう一つの選択肢が大きく首をもたげていた。読売新道である。私のテレマーク仲間や釣り仲間はほぼ読売新道を経験していた。北アルプスの主要な縦走路の一つだし、東沢谷を形作る稜線の片側でもある。歩いておきたいとは思っていた。翌週のチケットをどうするか、答えが出せないまま槍ヶ岳に着いてしまい、気づけば上高地に下山していた。

夕方の水晶岳
夕方の水晶岳

読売新道を歩く

古くからの友人と久しぶりに夏山を歩いた裏銀座縦走はとても楽しかったものの、なんだか消化不良を覚えた。これは7月に白根三山を歩いた時にも思ったが、力量のある仲間と明瞭な縦走路を辿るだけでは簡単すぎるのだ。一緒に夏山を歩く仲間とのペースが合わないストレスも少しだけあった。今回は、釣りではなく、久しぶりにソロで歩いてみようと思った。昔はほぼ全ての山にソロで行っていたが、テレマークスキーを始めて山の仲間ができてからはトレーニング登山以外では仲間とばかり歩いていた。

行くと決めて前日に準備をしていたら、不思議とワクワクした。ただ歩くだけの縦走登山にこんな気持ちになったのは久しぶりで、大町に向かう車の中で自分の感情に驚いていた。計画の段階で、2泊目の宿泊地をまともに決めていないせいもあり、少しの不安感も相まって、登山を始めた頃のようなドキドキがあった。(お盆時期は三俣のテント場の予約が必須ですでに一杯だった。)

当日は道中に熊に遭遇しつつも、快晴の中奥黒部ヒュッテまで歩いた。黒部湖周辺の水位が昨年よりかなり少ないことに驚いた。昨年、奥黒部ヒュッテ近くの細い沢で釣りを試みたが、今年はその沢に水が全くなかった。一方、本流にはイワナが泳いでいるのが見えた。荷物を落ち着かせたら、ツェルトを跳ね上げ、ビールを飲んで、お風呂に入り、横になって持ってきた本をダラダラ読む。最高の時間。

徐々に曇ってきてしまった
徐々に曇ってきてしまった

早々に寝て、9時間睡眠。翌朝4時から登り始めた。3時間ほど樹林の中を登っていたが、7時ごろには黒部湖方面が見渡せるほどに。

程なくして稜線を捉える
程なくして稜線を捉える

お目当ての尾根歩きが始まり、赤牛まで気持ちよく歩く。

最高の稜線歩き
最高の稜線歩き

現地に来て気づいたが、読売新道の東側にはもうひとつ尾根があり、2450mあたりで読売新道と交わる。そのため、その辺りまでは東沢谷を見ることはできない。読売新道の登りは長くてキツいと聞いていたが、赤牛岳までは歩きやすく、水晶までの稜線歩きは素晴らしいものだった。問題は水晶小屋にはテント場がないので定石なら三俣まで歩かなければならない。

自分は前週もその辺りを歩いているし、鷲羽も雲の中だったので、今回は湯俣に降りて帰ろうと思っていた。竹村新道をゆっくり歩き、適当なところでビバークすればいいと思っていた。ところが雷雨が迫ってきたので、逃げるように下っていたら、そのまま湯俣まで着いてしまった。ずぶ濡れだったので小屋泊にできないか聞いてみたら、急遽布団を用意していただいた。小屋の風呂に入って温まったのち、ご飯をいただいて寝た。

下山し続けてようやく見えた湯俣川。
下山し続けてようやく見えた湯俣川。

翌朝、湯俣からジップラインに乗り、高瀬ダムまで歩いて今回の山行は終了。結局、ビバークすることもなく、読売新道も思ったより厳しい道ではなかったが、久しぶりに一人で北アに入り、完全に自分のペースで歩く山旅は充実していた。

最近の縦走登山で感じていた消化不良は、今回は全くなかった。やはり充実感の大きな要因の一つは主体性なんだろう。


二週続けてみた東沢谷。来年こそは。
二週続けてみた東沢谷。来年こそは。

ログ