山のこと、道具のこと。

釣り

自分で作ったフライで釣る

フライフィッシング用のフライを作ることをタイイングという。

フライフィッシングを嗜むなら、タイイングをやるしかない。先輩に相談しながら少しづず準備して、自分のフライで魚を釣るということに入門してみた。

道具を用意

その他ツール

  • 2000円くらいのセットをとりあえず買った調子が悪いのがあれば、更新していけばいいかな
  • セット内容は以下:ボビンホルダー
  • シザース
  • ハックルプライヤー
  • ロータリーウイップフィニッシャー
  • ヘアスタッカー

セットになかったのでボビンスレッダーは別途購入

フライマルテリアルを用意

最初はエルクヘアカディスを中心に数種類作れればいい前提で購入。

ハックル

  • これはケチるなと先輩に事前に教わっていたが、とりあえずで安物買ってしまい後悔
  • ちゃんとしたものは1~2万円くらいする。高いな〜。

ボディ用ダビング材

  • 茶色と黒を用意

エルクヘアー

ハイビズドライウイング ピンク

  • 目印。パラシュートの軸にもなる

フォーム材

  • 甲虫を作る用
  • 自宅にあったツヤツヤしてる何かの梱包材を利用
  • マットな質感のものも釣具屋で購入

赤いフロス

  • ムネアカ系に利用

ピーコック

道具とマテリアルを揃えてみてまず感じたのは、高い。

フライは、ヤフオクやメルカリで個人が作ったよくできたフライを1個100200円ほどで買える。タイイングの道具に3万円かかったとしたら、損益分岐点は150300個だ。たくさん作るうちにマテリアルを買い足したりもするから実際はもっと多いかもしれない。お得のためだけならタイイングは理由にならない。

そして、材料も多岐に渡り正解がない。要は釣れればなんでもいいのだが、化学繊維から動物の毛、実にさまざまなもので虫や魚に模したフライを作り、魚が食べたいものを再現する。フライマテリアルのために鶏を養殖し、品種改良をしている。先人の熱量と掛けられた労力に、その奥の深さを感じる。

そんなことまでする意味が本当にあるのかと、最初は思っていた。

魚の視力

魚は目がいい。基本的に視力で餌とそうでないものを見分けている。 紫外線・青・緑・赤に対応する錐体細胞を持っており、ヒトよりも広い波長域を認識できる。(紫外線に対する受容体は成長とともに減少するらしい。)

サケ科の魚には偏光を識別する能力があり、光の強さや色だけでなく、光の向きを識別し、水面の反射や獲物の光の反射を他の背景と区別して認識できるそうだ。

つまり、適した位置にキャストし、水面に自然に流すことに加え、目立ちやすく、リアルな餌を用意することは釣果に直結すると言えるのかもしれない。

いざタイイング

タイイング、難しすぎた。エルクヘアカディスは比較的まともにできるようになったが、パラシュート系は難しい。作ったフライの写真をここに貼ることも憚られる。

次の釣行は北アルプスの標高が高い山岳渓流に行く予定だった。標高が高い場所では気温が低く、太陽光を集めるために黒い虫が多い。当然魚はそれを食べ慣れているため、カディスはそこそこにして、フォーム材で甲虫系を何個か用意した。本来はバッタも用意したいところだったが、マテリアルも技術も足りず、あとは昨年買って余っていたアリのフライを持っていくことにした。

沢に行ったものの…

今年の夏は渇水でダムの水位が回復しないとか、田んぼの土が割れたとか、ため池に給水車を出動させたとか、そんなニュースがあった。渇水は魚がつくポイントが減ってしまう面もあるが、沢を遡行しやすいという利点もある。難しい沢になりそうだったので、それもまあいいかと思っていた。

しかし開催直前になり、謎の前線が発生し大量の水が入った。秩父沢の橋が流される、梓川の増水で上高地は封鎖、など北アにも被害が出た。黒部湖は1日に3mずつ水位が上がったそうだ。

我々も入山を遅らせ、1日遅れで目的の沢に入ったが水が出過ぎていて停滞。1日待っても水が減る気配がなく、敗退となった。切り替えて別の沢に入り、ようやく釣りを開始。

麓での停滞も含めると6泊したのに、釣りができたのは1日と数時間ほどだった。

釣るぞ

天気に文句を言っても仕方がないので、いざ釣り。結論から言うとこの日のこの沢は厳しかった。魚影が薄く、3人でやっても数時間で2匹しか釣れなかった。(内1人は今年始めたばかりの初心者。)

そんなコンディションの中、最初に釣れたのが自分だった。黒い甲虫に似せたフライをしっかりと追いかけ、食いついてくれた。このフライはこの一回でほつれてしまい、自分のタイイング技術の低さが露呈したが、少なくとも魚が釣れると言うことが分かった。

この感動はなんとも言えないものがあった。自宅で沢を想像し、状況的に使えそうなフライを作る。山を超え沢に入り、ようやくそのフライを投げる。上手に流せば魚がそれに食いつき、釣り上げる。他人が作ったフライをフライボックスに並べても得られない感情があった。

もっとたくさんのフライのパターンが作れるようになれば、この喜びも大きくなりそうだなと思った。

翌日

釣りを最初にした日の幕営地で、夜に大量の羽アリが出た。女王アリは基本的に繁殖能力のない羽のないメスアリだけを働きアリとして産む。しかし巣が飽和すると繁殖期に羽と繁殖能力のあるメスアリとオスアリを産む。それらが同じ地域で気象条件などをトリガーに一斉に群飛する。別の巣から出たアリと出会い、交尾をするとメスアリは羽を落として女王アリとなり、オスアリは死んでしまう。夥しい数のアリが幕営地の光に集まってくるのだが、この群飛は1~2時間ほどで収まり、途端に数が減る。実に不思議で、よくできている。(アリやハチの半倍数性や血縁係数の話はとてもおもろしろい。)

この日はそういう日だったので、翌日はアントのフライを投げてみて、これがうまく行った。自前の甲虫系のフライの出来があまり良くないのもあって、昨年買ったありんこが活躍して、結局自分のフライの出番は多くなかったのが悔しかった。この時期はバッタも大量発生しており、先輩は自作のバッタが魚に好評だったようだ。

翌週

次の土曜日に、先輩と二人で、北アの憂さ晴らし的に日帰りで南アの沢に行った。お盆も過ぎて、偏食が始まってるかもしれないからバッタを用意して来てねと言われ、仕事の合間に3つだけバッタを作った。

3つとも違うパターンで作ってみた。

手前から

  • A: 黄色いフォーム材のボディ、緑のフォーム材ヘッドと羽、エルクヘアの羽
  • B: 黄色いダビング材のボディ、緑のフォーム材ヘッドと羽、エルクヘアの羽
  • C: 黄色いフォーム材のボディ、エルクヘアのヘッドと羽

となっている。Cパターンはエルクヘアを折り返してヘッドを作るのにやや時間がかかった。お世辞にもバッタそっくりとは言えないが、釣果としてはどれも魚に大人気で、この日は自作のバッタだけで一日釣りをしていた。どのパターンでも、魚の反応に実感できるほどの差はなかった。Aパターンが簡単で浮力も得やすいので、これを追加で何個か作りたい。

バッタフライを咥えたイワナの記念写真。

バッタのような大きめのフライは、ライントラブルを招きやすかったり、滝の下など風がある場所では投げるのが難しかったりするので、キャスティング技術の向上が求められた。

この日は初の尺越えとなる31cmのイワナも釣れた。

だいぶ痩せていた。慎重に餌を選り好みして長生きしてるのかもしれない。痩せてはいたが、初めての尺イワナが自分のフライで釣れたのが嬉しかった。

タイイングとフライフィッシング

フライフィッシングはゲーム性の高い釣りだと思う。沢にいるとルアーやエサ釣りが多くいて、どうしてフライなんですか?と聞かれることもある。

軽くて風に飛ばされてしまうようなフライを、ラインの重さとロットのしなりを利用して狙った位置まで飛ばす。ラインが水面に流されてフライが不自然に引っ張られないように、うまく操作する必要もある。これが難しくもあり、面白さでもある。

タイイングは、その魚とのやりとりをする沢をイメージして季節や場所に合わせて、様々な種類のフライを作る。自分の作れるフライの数が多ければ多いほど、手札が増える。これは、ゲームの変数の一つを自分でコントロールする手段が増えることを意味する。

そうしてゲームの幅を広げる間に、魚の生態や食性を学び、食べられる側の生態にも興味が出る。こうやって山遊びをきっかけに新しい世界が広がっていくのが、山のいいところだ。

タイイングの損益分岐点なんて考える意味は全くなくて、ただ楽しさのためにやればいいのだと実感できた。


きれいな水に、きれいな魚。美しい〜。